第187章

古屋さんは心を痛めていた。

慰めようとしても、どこから慰めればいいのか分からなかった……

時間が全てを癒すわけではない。傷の中には肉に刺さったトゲのように、表面からは見えなくても、内側では既に腐敗している傷もある。

稲垣栄作は彼女に先に出ていくよう言った。少し一人になりたいと。

オフィスに誰もいなくなると、彼は震える手でタバコに火をつけた。だが、すぐに消してしまった。

彼は過去を思い出した。高橋遥が泣きながら言ったことを。

「稲垣栄作、あなたは人を愛することができないのよ!」と。

そうだ!

昔の彼は愛することができなかった。彼の心の中で最も重要だったのは権力だけで、女も子供も...

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